アートアベニュー 衣斐 勤晋

今回は田無エリアで髪技理容師に出会うためにリサーチをしていたところ、アートアベニューさんを見つけたので取材を申し込むと衣斐 勤晋さんがインタビューを快諾してくださった。衣斐氏は理容師歴47年。常に新たな発想や技術を取り入れ、進化し続ける向上心あふれる髪技理容師だ。

アートアベニュー

衣斐 勤晋

理容師歴:47年
出身校:高知理容美容専門学校
出身地:高知県
得意技術:ショートカット・アイロン
得意スタイル:白髪を活かしたカラーデザイン
こだわり:複数メーカーのカラー剤を使い、独自の白髪ぼかしをご提案。
趣味:人と触れ合うこと

サロン紹介

まずはサロンへの道順を案内しよう。田無駅から約1.3kmとやや距離があるため、バスの利用を勧めたい。向台中央通り行きに乗車し、5分(4駅)で市民公園前停留所に到着する。停留所からはバスの進行方向に進み、一つ目の信号を右折すると、左手に爽やかなミントブルーの外壁とクラシックなバーバーポールが印象的な、当サロンが姿を現すはずだ。

理容師歴40年以上の夫婦が営むサロン。メンズショートカットともみほぐしを主軸に、髪を整えるだけでなく、軽やかな会話と共にココロとカラダを癒す空間を提供している。 お店の簡単な紹介が済んだところで早速、衣斐氏のインタビューを進めていこう。

理容師を目指したきっかけ

バーバーなび:こんにちは、本日はよろしくお願いします。まずは衣斐さんが理容師を目指すことになったきっかけを教えてください。

衣斐氏:よろしくお願いします。進路を選ぶ際、会社員ではなく自分で何かをやりたいと考えていました。人に使われるのではなく、自分の力で働きたいという思いがあったんです。そのとき、理容師か調理師になりたいと考え、担任の先生に相談したところ、「理容師の方が向いているのでは」とアドバイスをいただきました。ただ、当時は理容師という仕事が特別好きだったわけではありません。自分の「独立したい」という気持ちを叶えるための手段として選んだのがこの業界でした。しかし年齢を重ねるうちに、この仕事の魅力に気づき、次第に好きになっていきました。

バーバーなび:実際に業界に入ってから、その魅力を感じてこられたのですね。

衣斐氏:はい。最初は土日が仕事という環境に慣れず、地元の友人たちが休んでいる中で働くことに違和感もありました。高知で6年間修行を積んだ後に東京へ出てきたのですが、技術レベルの高さに驚き、ある意味カルチャーショックを受けました。同時に、東京での学びはとても刺激的で、時間の流れも非常に早く感じました。そういった意味で、東京に出てきたことが自分にとっての大きなターニングポイントだったと思います。上京してからは、「コンテストでチャンピオンになりたい」「いつか独立したい」といった強い思いを持ちながら、日々努力を重ねていました。

理容業界への思い

バーバーなび:理容業界全体に対してどのような思いや考えをお持ちですか?

衣斐氏:手に職を持つことができるこの業界は本当に素晴らしいと思います。今後、AIが進化していく中でも、人々は働き続ける必要があると思いますが、その中でも理容師という仕事はAIに取って代わられることはないと感じています。理容師は、直接お客様とコミュニケーションをとり、「ありがとうございました」と言われる仕事であり、そうした点でも非常にやりがいを感じられます。また、娘が同じ理容の世界に入ってくれたことはとても嬉しく、私自身もさらにステップアップし、業界の土台づくりをしっかりと行っていきたいと考えています。

バーバーなび:これからの若い世代が新しく作り上げていく業界も楽しみですね。

髪技理容師としてのこだわり

バーバーなび:それではこだわりを教えてください。

衣斐氏:これからも勉強を続け、技術を向上させていきたいと思っています。カットやシャンプー、顔剃り、セット、整髪料の付け方など、職人としては死ぬまで技術が進化し続けると思うので、新たな技術を学びながら成長していきたいと考えています。同じことを繰り返すことに見えるかもしれませんが、それではつまらないので、少しずつ変化を加えていきたいですね。YouTubeを見て学ぶこともできますし、人の技術を見て学ぶこともあります。ですから、こだわりとしては、新しい技術や考え方を少しでも取り入れて、自分の進化を続けたいという思いがあります。

バーバーなび:向上心を持ち続けているのですね。

衣斐氏:技術職である以上、上手であることは当然で、 そこからさらに日々進化できるよう、自分で常に刺激を与えたいと思っています。極端な変化でなくても、お客様の満足度に繋がるのであれば嬉しいですし、その変化を自分自身も楽しみたいですね。

バーバーなび:今後、取り組んでいきたいことや発信していきたいことはありますか?

衣斐氏:今の若い世代の技術は、進化しすぎているがゆえに、正直なところ「上手とは言えないな」と感じることがあります。キャッチボールと同じで、グローブの持ち方やボールの握り方から学ばないと、良いボールは投げられません。理容も同じで、基礎が大切な業界だからこそ、修行時代が長くて大変でした。しかし、今は「早く、簡単にスタイリストにして、お金を稼がせる」という方向に進んでいるように思います。その結果、仕上げるスタイルも「早く簡単にできるスタイル」に偏ってきているように感じますし、広く浅く勉強しているように見えることもあります。私たち理容師は、基礎である角刈りやパンチパーマ、白髪染めといった技術をしっかり学び、その一つ一つの技術を深く考えながら修行を重ねてきました。その積み重ねが、同業者との話の中で活きてくることもありますし、実際にそうした技術が役立ってトラブルを回避できる場面もあります。

最近では、SNSを活用した集客に力を入れている方も多く、それ自体は素晴らしいことだと思っています。ただ、私が大切にしているのは、やはりハサミの技術や基礎といった理容の根幹となる部分です。こうした技術は、一朝一夕で身につくものではなく、時間をかけて積み重ねていくものだと感じています。だからこそ、もしこの新しい集客方法に確かな技術が伴えば、さらに素晴らしいものになるのではないかと思います。

バーバーなび:理容業界の発展は嬉しい反面、改善すべき点もあるのですね。

衣斐氏:一番大事なのは、基本の部分です。基本的なスタイルをしっかり学び、その上でどう変化させていくかを考えられるようになります。バランスを取ること、左右均等なスタイルを作る技術ができて初めて、左右アンバランスなスタイルにも挑戦できるようになります。この「左右均等にする」という技術は地味ですが、非常に難しいもので、習得にはコツコツとした修行が必要です。今はそれを避けようとする時代になっているのか、そこをおろそかにしている若い理容師が多いように感じます。例えば、カットを適当に済ませて、整髪料で仕上げをして誤魔化すようなやり方をしてしまうと、軽い仕上がりになり、後々トラブルに繋がることもあります。

以前は、理容師が移動すればお客様も一緒についてきた時代がありましたが、今は理容師が移動しても、お客様は別の理容師を求める傾向があります。便利さを求めているのだと思います。もちろん、理容業の進化で、過去のやり方とは異なる過程があっても良いとは思います。実際にYouTubeを通じて学べる環境は非常に便利なツールです。しかし、経験はやはり大切で、知識を得るためには時間をかける必要があると感じており、そこにギャップを感じています。今後は多様性の時代だからこそ、ダブルライセンスを生かす理容師が増えていくと思いますし、いろいろな得意技術を持つ理容師を目指す人も出てくるでしょう。しかし、実際に必要とされる理容師は、何か一つを強みとして特化している理容師だと思います。自分にしかできない技術を持っている理容師の方が、世間から求められるのではないかと考えています。

バーバーなび:理容の魅力の中でも、大切な技術や考え方を残したい部分があるのですね。

お客様へのメッセージ

バーバーなび:どのようなお客様にお店に来て欲しいですか?

衣斐氏:「任せるよ」と言ってくださるお客様が、やはり一番ありがたいですね。信頼していただけるからこそ、こちらも自信を持って施術ができます。人は自分にないものを求めがちで、直毛の方はカールを、くせ毛の方はストレートを求めることが多い傾向があります。でも、私はその方の“素材”を活かしたスタイルをご提案したいと思っています。髪の流れ、骨格、顔の形などを見ながら、その人に本当に似合う髪型を作り上げたい。そのためには、お客様の背景を知ることも大切です。年齢、職業、ご家族構成、趣味など、ライフスタイルをふまえた上でご提案することで、より納得していただけるスタイルが生まれると思っています。もちろん、そこに至るには時間もかかりますし、信頼関係が必要です。ですので、お客様の気持ちや希望を汲み取りながら、「お任せするよ」と言っていただけるような関係を築いていけたら嬉しいですね。

バーバーなび:実際に来店されるお客様の年齢層はどのあたりですか?

衣斐氏:50代のシニア世代が中心ですね。理容室はオーナーの年齢に近い層のお客様が集まりやすいとも言われていますし、よく「ロマンスグレー」なんて言葉もある通り、白髪を気にされるこの世代の方々に対して、白髪を活かした“イケオジ”スタイルをご提案して、悩みを解消しつつ、かっこよく仕上げたいという思いがあります。最近では、芸能人の方もあえて染めずにグレーヘアを楽しむ方が増えたことで、「年齢を重ねることは完成に近づくこと」だとポジティブに捉えるお客様も増えてきた印象です。だからこそ、白髪を“隠す”のではなく“魅せる”スタイルをご希望される方も増えています。年齢を重ねたからこそ出せる“味”や“深み”を活かしたスタイルを、今後もご提案していきたいと思っています。

バーバーなび:同世代の方々に向けて、素材を活かしたスタイルをご提案されていらっしゃるのですね。

未来の理容師に向けたメッセージ

バーバーなび:理容師を目指す若者に向けたメッセージをお願いできますか。

衣斐氏:まずは、焦らずに確かな技術を身につけていただきたいと思っています。基礎を大切にし、しっかりと土台を築くことが、将来的に大きな力となります。たとえば、ハサミやコームの使い方を丁寧に学ぶこと、両手をしっかりと動かして施術すること、頭の丸みに合わせた手の動きや、目線を低く保ち腰を落として施術する姿勢など、基本動作のひとつひとつが大切です。そうした基礎をきちんと習得してこそ、ベーシックなスタイルを正しく仕上げることができます。基礎をおろそかにしたまま応用に走ってしまうと、かえって遠回りになってしまい本末転倒です。

バーバーなび:基礎を大切にしなければ、応用も難しくなってしまうということですね。

衣斐氏:つい目を引くスタイルに憧れてしまうこともあるかもしれませんが、そうしたスタイルもすべては基礎の上に成り立っていることを早い段階で理解してほしいと願っています。長く続けてしまったクセを後から修正するのは、非常に大変ですので、最初から意識を持って取り組んでいただきたいです。

また、どのサロンで働くかという選択も非常に重要です。良い技術を学べる技術者のもとで経験を積むこと、そしてそうした環境に自分の身を置くことが成長への近道です。収入だけで判断するのではなく、「思い」や「人との関わり」を通して得られるものも大切にしてほしいと感じています。今は転職が当たり前の時代とも言われていますが、理容業界でもサロンを転々としてしまうと、自分自身の軸がぶれてしまうことがあります。目の前のお客様や職場の仲間と丁寧に向き合いながら、人間関係を築いていくことで、自分自身も自然と成長していけるのではないでしょうか。

バーバーなび:素敵なメッセージをありがとうございました。

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