THE STYLIST INTERVIEW
理容師特集
GLOCK HAIR SERVICE BARBER SHOP KEI
今回は、以前バーバーなびで紹介したGNASTY by DAMDEE TOKYOの伊藤 慧氏の紹介で、GLOCK HAIR SERVICE BARBER SHOP店長のKEI氏を取材した。KEI氏は理容師歴12年。お客様にとってサロンが“第三の落ち着ける場所”となるよう、髪を整えるだけでなく、心まで整えられる空間づくりを意識している。常に「当たり前のことを当たり前に」を実践し、人としてのあり方を大切にする姿勢からは、理容への熱い情熱が伝わってくる。まさに、人と向き合うことを信条とする髪技理容師だ。
CREDIT : Photo/Yuki 文/Yuki 編集/Manami(バーバーなび)
GLOCK HAIR SERVICE BARBER SHOP
KEI / 店長
理容師歴:12年目
出身校:北海道理容美容専門学校
出身地:北海道
得意技術:直毛でツンツンしてしまう髪を切り崩し、無造作に作る技術
得意スタイル:お客様が家に帰って自分でセットしやすいスタイル
こだわり:人と人としての対話と関係性の構築。骨格や癖に合わせた再現性のある仕上がりへの追求。
趣味:車の改造とドライブ(愛車:インプレッサ)
サロン紹介
当サロンは本川越駅(西武新宿線)西口から徒歩2分、川越市駅(東武東上線)から徒歩5分。2駅からアクセスできる好立地に位置するバーバーショップだ。
店内はブラック×ホワイトのチェッカーフロアが印象的で、まるでアメリカのガレージをそのまま再現したような空間。ネオンライトとメタルパーツが映えるインダストリアルな雰囲気の中に、ヴィンテージチェアが静かに佇む。壁にはクラシックな写真やバーバーサインが並び、無骨さとスタイルが絶妙に共存している。音、光、香り──そのすべてが“ストリートカルチャー×バーバー”の世界観を体現したサロンだ。
理容師を目指したきっかけ
バーバーなび: こんにちは。本日はよろしくお願いいたします。まずは、KEIさんが理容師を目指すことになったきっかけをお聞かせください。
KEI氏: よろしくお願いいたします。きっかけはあまり格好いいものではないのですが、中学生の頃に通っていた美容室で、スタッフの方が好きな服を着て、好きな髪型をして、楽しそうに働いている姿を見て「いいな」と感じたことでした。もともと座学よりも体を動かすことの方が好きで、パソコンに向かって仕事をしている自分の姿が想像できなかったこともあり、「将来はこういう仕事がしたい」と思うようになりました。
バーバーなび: 美容室での経験がきっかけだったのですね。その後、理容師の道を選ばれたのはなぜでしょうか。
KEI氏: 最初は美容の道も考えていましたが、高校生のときに北海道理容美容専門学校の校長先生の話を聞く機会がありました。その際、「なぜ髪に携わる仕事をしたいのか」と尋ねられ、私は「友達の髪を触るのが好きだから」と答えたところ、「それだけの気持ちでは続かないよ」と厳しい言葉をいただきました。当時はショックでしたが、今振り返ると大切な気づきを与えてもらったと思っています。また「生涯プレイヤーとしてお客様と共に年を重ねたいのであれば、理容の方がそれを実現できる」と教わったことも大きなきっかけでした。当時はまだバーバーカルチャーが日本に浸透していない時代で、理容の道に進んでからも「美容の方がかっこいいな」と感じることがありました。そのため、理容師免許を取得した後に美容師免許も取って、メンズオンリーサロンで働こうかと考え、資料も取り寄せていたタイミングで、先輩と一緒に「バーバーバトル」のイベントを見に行く機会がありました。そのステージを見て、「これ、床屋じゃん。めちゃくちゃかっこいい」と衝撃を受けました。その瞬間に「バーバーを目指そう」と決め、今の道を選びました。
理容業界への思い
バーバーなび: 理容業界全体に対して、どのような思いやお考えをお持ちですか。
KEI氏: 近年は、SNSを通じてフェードカットやブラックヘアなどを学ぶ、意識の高い学生が増えてきています。その中で、バーバーという職業が「尖った」「アウトローな」カルチャーとして見られる側面もあると思います。だからこそ、SNSを通じて発信する立場にある私たち大人が、若い世代に与える影響の大きさを自覚し、責任を持って行動することが大切だと感じています。
バーバーなび: 発信による影響の大きさを意識することが重要なのですね。最前線で活躍されている方々が意識すべき点はどのようなことでしょうか。
KEI氏: 現在、バーバー業界の最前線を牽引しているのは30代から50代の世代だと思います。彼らの発信の仕方やイベントでの立ち振る舞い、その一つひとつの行動が、業界の方向性を左右する鍵を握っています。だからこそ、私たちは若い世代にとって「大人としての手本になれる存在」であることを意識すべきだと思います。もちろん、人間は完璧ではありませんし、あまりに硬くなりすぎてしまうと、バーバーカルチャーが持つ自由で創造的な良さが失われてしまいます。ですが、ラフに見せながらも、締めるべきところはしっかりと締める。そのバランスが取れてこそ、日本のバーバーカルチャーは成熟していくのだと感じています。
髪技理容師としてのこだわり
バーバーなび: それでは、理容師としてのこだわりをお聞かせください。
KEI氏: こだわりはたくさんありますが、まず一番大切にしているのは「人と人が向き合っている環境」であるということです。もちろんプロとして技術を提供していますが、お客様が日々の仕事で得た収入を、信頼のもとで私たちに託してくださっている。その背景には一人ひとりの人生のストーリーがあります。だからこそ、家庭でも職場でもない“第3の空間”として、ここに来た時だけは肩の力を抜けるような、まるで自分のホームのように感じてもらえる場所づくりを大切にしています。そして、何より自分自身の人間性を磨き続けることを意識しています。
バーバーなび: お客様との関係性を深めることを重視されているのですね。
KEI氏: はい。男性のお客様のカットスパンは長くても3ヶ月ほどですが、社会人であれば友人よりも頻繁に会っている方もいます。2週間に1回となれば、実家の親よりも顔を合わせていることもあると思います。だからこそ、プロとしての距離感は保ちつつも、人として真摯に向き合うことが大切だと感じています。いくら取り繕っても、お互いの人間性は必ず伝わるものです。だから私は、飾らずに自分のままで接し、会話というよりも“対話”を意識しています。その中でお互いが「この人、いいな」と思える関係性を築くことが理想です。私たちの仕事は、わずか1時間の中でお客様の気持ちを上げも下げもできてしまう仕事です。だからこそ、髪を整えるだけでなく「人の心と向き合っている」という意識を常に忘れずにいたいと思っています。
お客様へのメッセージ
バーバーなび: どのようなお客様にご来店いただきたいとお考えですか。
KEI氏: 基本的には、どんな方でもウェルカムです。ただ、技術的な面で言えば、これまで短髪にしたことがない方や、「この髪型に挑戦したいけど勇気が出ない」という方にぜひ来てほしいと思っています。私は、お客様に似合わないと判断したスタイルはお断りすることもありますが、それは「できません」という意味ではありません。その方が持つ理想のスタイルを、骨格や髪質の特徴を踏まえて再構築し、欠点を個性に変えることを得意としているからです。
バーバーなび: コンプレックスも個性として活かせるということですね。
KEI氏: そうですね。私はコンプレックスを隠す必要はないと思っています。むしろ、髪や骨格にコンプレックスを抱えている方ほど来てほしいです。それをその人だけのオリジナルの魅力に変えていけるので。私の目標は、お客様が誰かを見て「こうなりたい」と憧れる側ではなく、「こうなりたい」と思われる側に立てるように導くことです。フェードスタイルに挑戦したいけれど似合うか不安、勇気が出ないという方も、ぜひ一度足を運んでいただきたいと思っています。
未来の理容師に向けたメッセージ
バーバーなび: 理容師を目指す若者に向けて、メッセージをお願いします。
KEI氏: 理容師は、自分の手でお客様の気持ちを左右してしまう仕事です。どんなに頑張っても、人の心を扱うという点で非常に繊細で難しい職業だと思います。だからこそ、自分のメンタルをコントロールできなければ、お客様としっかり向き合うことはできません。常に自分と向き合い、今の自分の行動が「人として正しいかどうか」を見失わないことが大切です。技術は努力を続ければ必ず身につきます。しかし、「自分に嘘をつかないこと」「人に流されないこと」こそが、長くこの仕事を続けていくために一番必要な力だと思います。
バーバーなび: 自分との向き合いが重要だということですね。他に若い世代へ伝えたいことはありますか。
KEI氏: 具体的なことを挙げるなら、「掃除」です。理容室やバーバーは、人を綺麗に整える場所です。その空間が汚れていたら、繊細さが求められるフェードカットのような技術でも「これくらいでいいか」と自分に妥協してしまう。掃除とは、そんな弱さに負けないための鍛錬だと思っています。店は自分のステージです。その場所を綺麗にできない人は、お客様を綺麗にすることもできません。掃除の姿勢は、どれだけお客様に真剣に向き合えるスタイリストであるかを映し出す鏡だと考えています。以前、ある理容学生が「就職して最初にやるのは掃除なのに、今その掃除ができていないのは違うと思う」と話していたことがありました。その言葉を聞いて、とても衝撃を受けましたし、こうして物事の本質を理解して行動している人がいる。そういう姿勢を持つ人は、やはり強いと感じました。どれだけ努力しても、時代は流れ、旬は移り変わっていきます。これからの若い世代は、さらに競争の激しい環境で生きていくことになると思います。だからこそ、自分に妥協せず、日々を大切に積み重ねていってほしいです。
バーバーなび: 素敵なメッセージをありがとうございました。